概要 of #022 深情さびつく回転儀

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DSC_0370.JPG常葉佳堯は久しぶりにこの別荘を訪れる。
ここは本来、友人の有端が次女・アオイに遺した四棟の家であり、自分が管理を任され、娘が成人するまで、権利が他人に渡らないよう守ってきた。だが有端の死後、彼はその権利を強引に横取りしここを私用に使っている。佳堯にも言い分はある。彼が管理をする間、その娘がここを訪れることもなく、まるでその所有を忘れているかのようであったし、自分が時々こうして屋敷の手入れをしている事すらも知らないのではないか。事実上はここは自分のものである。それにいつかは彼女もここを手放すに違いないのだ。
そこは若い娘が住むには不便で刺激が少ない。だからこそ、自分のような人間の秘密を隠すのに都合がよかったりする。そんなある日、一方的な連絡でアオイが十数年ぶりにここを訪れる事になる。娘がこの事実を知れば、返還を要求してくるに違いない。佳堯は、娘を何とかしなければならないと思った。それがエゴだということも充分理解している。

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DSC_0351.JPG常葉啓江は夫の許可を得ずに、この建物を売ろうと思っている。ここを訪れ、寝泊りする度に何かの気配を感じるのが理由の一つでもあるが、夫がここに何らかの秘密を隠しているのではないかと疑っているからだ。夫婦の不和の理由がこの家にあると彼女は思っている。だからこそここを手放したいのだが、それは同時に隣の家に住む男とも離れなければならない事を意味するのが心残りでもあった。それも夫婦の不和の原因の一つだと彼女は気付いているだろうか。

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DSC_0225.JPG松葉江風四郎は自分が別荘として使っている家へ車を走らせていた。現在、隣を所有している常葉という男から購入した家だ。隣家の人妻との逢瀬に使う程度だったが、この場所に訳ありの知人を一人匿うようになるから、これからはそれもできなくなるだろう。彼は車のスピードを上げた。細く見通しの悪い山道だが、何度も走っている道である。カーブを曲がったところで視界が女をとらえた。女が振り返った時、彼は一瞬ブレーキを踏むかどうか迷う瞬間はあったが、それを実行に移せる時間まではなかった。その女はかろうじて息をしていた。

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DSC_0152.JPG柳見夫妻は死に場所を探している。
事業に失敗し多額の負債を抱えた二人は、既に生きる希望もなく、あとに遺した娘の事は気がかりではあったが、人生の終の場所としてこの山に辿り着いた。
山中でそのまま眠るように死ぬはずだったが、急に降り始めた雨が邪魔をする。もう少し穏やかな場所はないかと更に奥へ進むと、森が開けた場所に佇む四軒の家が見えてきた。四軒は屋根の形と色以外は同じ外観をしていて、部屋の中を覗くと、やはり、内装も不気味な程に統一されていた。人が使用している様子はあるが、今は誰の気配もない。おそらくは別荘であるが故に、今の時期は使用していないのではないだろうか。二人は家の中に忍び込む。鍵が閉まっていないことや、地下室から何かの物音がするのを不審に思ったものの、そんな事はこれから死んでいく自分達には関係がない。

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DSC_0075.JPG彼女は久しぶりにあの家を訪れる為に、山道を歩いている。舗装はされているが車一台が通るのがやっとの細い道だった。生活の居を都会に構えながら、彼女はただその管理を手に余らせている。今は父の古い友人が好意で管理をしてくれているという。彼女は常葉と名乗るその男と会うのは初めてだった。下の妹二人に遺された家は、既に他人の手に渡ったとも聞く。彼女もそれがいいのだろうと思いながらも手放せずにいるのは、父の言葉が気になっていたからだ。まだ幼い彼女を初めてここに連れて、建ち並んだ四棟の家を前に父は言った。「本物は一つだけ。あとは偽物なんだ。」
森が開けた遠くの方に四軒の家並みが見えてきた。やはり奇妙な家だった。周りには他にも、屋根の形と色以外は全く同じ外観をした三軒の家があり、上から見るとちょうど各頂点に位置した正方形を象るように四軒は立ち並んでいる。居住するのは可能だが、それでも彼女はここに住む気にはならなかった。見上げた空の雲行きは怪しく、程なく雨が降る事を示している。やがてそれが豪雨となる事を彼女はまだ知らない。後方からは、この見通しの悪い道をかなりのスピードで登ってくる、車のエンジン音が聞こえた。

娘を名乗る3人の女。

白い男女がルーレットを回し始めた時、
一つずつ嘘が消えてゆく。
最後まで残り、「本物」となるのは誰なのか。

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