4つの建物 of #022 深情さびつく回転儀

img_993419_26959876_1.jpg

4つの異なる屋根の「家」

この山奥の家は4つの独立した棟を持っていて、それらで一つの「家」を構成している。建物の外観は殆ど同じで異なるのは屋根の形と色だけ。赤い三角の屋根、赤い四角の屋根、黒い三角の屋根、黒い四角の屋根。この日、4つのそれぞれの建物内で、十余人の様々な思惑が一気に交錯することになる。

建築家 妻鹿 斎

(めが いつき)
昭和初期に30代の若さで夭折した建築家。横浜出身。東京帝国大学文学部美学美術史学科卒業後、米国に留学後、同国の建築設計事務所に勤務し、コロニアル様式邸宅設計を学ぶ。帰国後、横浜に自らの建築事務所を開設するも、自らの興をそそる仕事しか手掛けず、やがて閉鎖を余儀なくされる。その後、神秘主義や魔術に傾倒し、作品の中に積極的に取り入れていくこととなる。死後、設計物の大半が戦災他、何らかの理由で消失したとされ、現存する設計邸宅は10棟程とされる。



Yabashi_Kenkichi-Portrait.jpg
妻鹿 斎(1901-1936)

資産家 有端 篤

(ありはし あつむ)
横浜で貿易で財をなした新興財閥の家に三男として生まれる。
学生の頃は勉学を嫌い、遊蕩生活を送っていたが、父親に疎まれたことから逃げるように米国へ留学し、そこで建築を学ぶ。一度は建築家を志すものの、24歳の時に分家の有端家の跡取りが絶えた為、急遽帰国して養子として有端家を継ぐ。家を継いでからは、有端家の事業である不動産売買で、財を保つなど手腕を発揮してきたが、いつしか、同じく米国で建築を学んだ先達である妻鹿の建てた邸宅の不思議な魅力にとり憑かれるように傾倒し、世界各地に点在するそれらの建物を蒐集するようになる。
やがて留学時に米国で知り合ったと水谷百合江と日本で再会し結婚するが、5年後に死別している。二人の間に子供は生まれなかった。有端家にはアカリ、アオイ、アンリ、アカネと名付けた4人の娘がいるが、すべて養女である。死期を悟った際、4人の娘にそれぞれ所有する家を分け与え「家に初めからあるものは、何一つ変えてはならない」と遺しその後他界する。




lrg_10512080.jpg
旧有端邸の一つ 劣情館

現在の所有者

黒い四角屋根の家―有端 葵

有端の次女・葵は普段、都会に住んでいる。彼女のみならず、4人の娘たちは父の遺言を忠実に守ろうとし、それぞれの「家」をできうる限り管理してきた。しかし遺された家はそのどれもが山奥深い不便な場所にあり、彼女たちにとっては重荷でしかなかった。事実、妹の、三女アンリと四女アカネは結局、各人の家を売却しその所有権を手放していた。アオイもその気持ちがわからないではないが、父の想いの残るこの場所を手放す気にはなれなかった。



DSC_0066.JPG

黒い三角屋根の家―常葉 佳堯・啓枝夫妻

有端氏の友人として、4つの家の管理を任されていた常葉という男は、欲深い男で、アオイが幼いのをいいことに、この4つの建物の権利を横領し、自分がその1つを所有し、残りを他人に売り渡すことで処分してしまう。ここを別荘として妻共々使用しているが、それとは別に彼にはここをどうしても手放せない理由があった。それを知ってか知らずか、妻は妻でこの気味の悪い家を手放そうとしている。アオイがここを訪れるという連絡を受け、常葉は動揺する。その理由は、自分がここを勝手に横領したから、という事だけではない。


DSC_0235.JPG

赤い四角屋根の家―松葉 江風四郎

実業家の松葉は仕事上の付き合いから常葉と懇意になる。かねてからこの建物の横領と売却を目論んでいた常葉から4棟の家の一つを買い上げを持ちかけられる。彼にとっては単なる別宅として興味本位で手に入れたこの建物だが、やがてそれは、常葉の妻、啓枝との逢瀬の場として使われる事となる。ある日、彼はここへ友人の厄島森平を匿う事になる。森平がここへ来た目的は物騒なものだったが、それは彼にとっても都合のいいものでもあった。だが、この日、この建物の中にさも当然のようにいたのは、有端碧と名乗る不気味な女であった。


DSC_0103.JPG

赤い三角屋根の家―有端蒼

有端蒼は都会で暮らし、なかなかここを訪れる機会がなかった。父の死後、管理は常葉という父の友人に任せきりだったし、この場所の事も記憶の片隅に追いやっていた。だが最近になって時折思い出す。小さい頃、初めてココへ連れてこられた時、父が並んだ家を前に言った言葉「本物は1つだけ。あとは偽物なんだ」
この言葉の意味が気になって仕方がない彼女は、数年ぶりにここを訪れる。ここに建つ4つの建物のうち、本物は一つだけ。後は偽物だと。父はそう言ったのだろうか。とすると、その本物には、父の莫大な遺産が残されているのではないか。


DSC_0339.JPG

5つ目の建物

尚、この場所に建築された建物は4棟のはずだが、なぜか外から見ると5棟の家が存在しているように見えるという。

緑の円形屋根の家

そこでは5人の男女が奇妙な共同生活を送っていた。
彼らはこれを「仕事」だという事で十数人が集められた。仕事とはいうが、一日中何をするでもなく、ただこの部屋で時間を過ごせば、それだけで1万円が手に入る。何とも割のいい仕事だった。だが、時間が経つにつれ、疑問もわいてくる。ただ何もしないというのも不自由なものだ。自分たちは時間を金で買われているのではないか。そんな事から脱落していく者もいて、最後に残ったのはこの5人だった。
この日、彼らは奇妙な物を目にする。いつもは気づくことのなかった部屋に置かれたルーレット。そしてそれよりも驚いたのが、自分たちが暮らす、この緑色の屋根の家の周りに、4つの屋根の建物が突如現れた事である。









DSC_0045.JPG