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南町奉行所跡地(千代田区有楽町二丁目JR有楽町駅中央口)

■オシラス■

かつて南町奉行所が存在した場所に独立行政法人司法文化技術支援機構が運営する特別裁判所の建物が立っている。
過去の事件における公判が適正に行われ、妥当な判決や刑罰が執行されたかどうかを検証するための司法研究所としての側面を持つ。
陪審員は選挙権を持つ日本国民から無作為に選ばれ招集される。冒頭で陪審員は裁判官から公判事実に関しての概要を説明されたのち、既に存在しない事件当事者たちの感覚を疑似体験する為、「仮想現実陪審『オシラス』」と呼ばれる筵のような装置に座らされる。
そこで見聞きし、あるいは体験した感覚を基に評決を出す事が求められる。
それはまるで「夢」を見るような感覚に酷似しており、夢のメカニズムが不明な現段階においても理論的な裏付けが困難とされる事から、当事者各人の精神状態や経験や深層心理に基づいた妄想ではないかとも批判されている。

■事件概要■

新年を迎えたばかりの江戸の事である。
神田小伝馬町で小間物問屋・鈴代屋を営む伝兵衛という男は、いつもの日課で浅草の観音様にお参りをしていた。
お参りを終え帰ろうとすると、突風とともに一枚の紙切れが彼の足元に舞い落ちる。
見るとそこには、今晩、小伝馬町にて火事が起こる旨の予告が書いてあった。
伝兵衛はこれを観音様のお告げと思い、店へ帰り、急いで蔵に家財などを運び出した。
その晩、まさに小伝馬町一帯で火災が発生したのである。
伝兵衛の店も焼けてしまったが、その他の財産は損害を免れた。
これを怪しんだ近所の者が奉行所に訴え出たため、彼は奉行所へ引き立てられ、死罪を言い渡される事となる。