外交省の中の一室、通訳室は、対外的な折衝が行われる部屋である。通訳室の周りをさらに2つの「ブース」と呼ばれる部屋が囲み、ここに通訳が詰めて、中の会話をイヤフォンを通じて通訳する。
今現在、この部屋を使う通訳チームは「相澤班」と「染谷班」の2班がある。
部屋を管轄している官僚の鶴田は、両班の班長を呼び出し通達した。どちらかの班には、今年いっぱいで辞めてもらう。
班長達は突然の事に、当然のことながら反発をするが、これは単に契約金額の問題だけではなく、鶴田はこのどちらかの班に、会議内容を外部に流出させている人間がいるのではないかと疑っているからであった。両班長はそれを否定するが、染谷班に所属する水野と本郷が会議内容を記者に横流ししているのは染谷すらしらない事実である。
相澤班の笠原と小松は、その情報を水野が相澤班ブースに忘れて行ったデータから知りえる事になる。
この事が明るみになれば、自分達の班は解雇されなくても済む。そう考えるのは当たり前のことだったが、相澤はなぜかそれを黙っている事にする。
鶴田の同僚である外交官・長尾は、中南米キオソでの休暇を終え、時差ボケを押しながら勤務していた。折しもキオソではホテルの一室から身元のわからない日本人女性の遺体が発見されたと新聞の報道にある。それは偶然なのか、長尾が宿泊していたホテルと同じである。
刑事と名乗る男女が相澤班のブースへ入ってきた。長尾という職員をさがしている。相澤達は、長尾が事件の被疑者として聴取されるのだと考える。通訳室で対応したのは長尾本人だった。刑事達は長尾の名前を問いただすが、彼の口から出てきたのは、日本語ではなく、「ヌハン語」と呼ばれる誰も聞いた事がない言語であった。困惑する刑事達に一計を案じた笠原は、自分達がこの未知の言語「ヌハン語」を通訳する事により、長尾の潔白を証明してはどうかと提案する。長尾に恩を売る事によって、解雇を免れるのではないかと。
全く同じころ、染谷班のブースは混乱していた。相澤班から入ってきた2人の男女。長尾が対応したところ、「キオソチュア」の人間だと名乗った。
彼らは南米キオソの特使ではないのか。所々聞いたことのない言語「ノフン語」を用いている。染谷は思った。誰も知らない言語なら、自分達が適当に通訳しても大丈夫ではないか。自分達の有能さを示せば、鶴田の考えも変わるのではないか。
こうして通訳室で2組の日本人同士の会話に対し、両班はそれぞれ通訳を始める。染谷班は、2人の刑事をキオソの特使であり、キオソ王子の婚約者を日本に探しにきた者と会話を導く。それを真に受けた鶴田たちは、歓迎の意を表している。
一方で相澤班は、長尾を捕まえに来た刑事に対し、歓迎している鶴田たちの行動が理解できない。長尾の容疑を晴らそうと通訳をするが、相澤は時にそれを邪魔し、長尾の容疑を深めていく。
笠原には確信ではないが1つの疑念があり、それは時間を増すごとに大きくなっていった。笠原はイヤフォンを通じ、刑事に真犯人の名を告発する。口にしたのは相澤の名前だった。
通訳室に入った相澤。刑事に事情を訊かれる彼の言葉は、「ネヒン語」と呼ばる、これまた誰も聞いた事のない言語だった。