養菅(ようかん)で栄えたこの村で、最近、桑の葉が一斉に枯れるという事態が起きた。これに絶望した養菅家達は気を病み、中には自ら死を選ぶ者もいた。養菅家の一人、上沢茂はこの一連の出来事を、敵対する山岡勝の仕業と考える。そこで勝への意趣返しの為、村に古くから伝わる「乞われ御(コウワレゴ)」の儀式を行おうとする。それは棲川の沢に棲む龍神への生贄の儀式であり、茂は勝の一人娘、節子にその役目を負わせようと画策する。
一方山岡家は、淵輪に災いがおこっているのは伝承の中の存在とされた「てえべえ」という化け物のせいであり、それが茂の中に棲みついているのだと思い至る。勝は寄合を開き、村の為にならない人間を追い出す方法「波羅夷(ハライ)」の入れ札を行おうと考える。これによって、山岡家にとって何かと目障りな茂を追い出そうと、水面下で集落の皆に手を回し始めた。
同じ頃、一組の夫婦が東京からやってきた。夫婦は集落の人間とあまり関わろうとせず人目を避けるように空き家に暮らしている。集落の人々は、この里見夫妻を少し奇妙な目で見始めた。
ところが里見夫妻にしてみればこの集落の方が、少し歪んでいる様に思える。用意された空き家は、未だに誰かが住んでいるような気配がする。するどころか、自らを幽霊と称する黒川という男が現れる。幽霊などと言われても信じ難い里見であったが、事実、この男の姿は村の連中には見えていないようであった。
「乞われ御」をやるか「波羅夷」をやるか、茂と勝は激しく対立する。そんな中、水口清二が提案した無責任な折衷案、「波羅夷で選ばれた者を生贄にする」という一言で、淵輪の集落は他人を貶めてでも自分だけは助かろうとする、醜い思惑が激しく溢れだした。入れ札で半数の名前を書かれた者は村の為に命を差し出さなければならない。入れ札は一度や二度では決まらず、村の人間の神経は日々すり減って行った。
やがて茂と勝は一つの合意にたどり着く。何も村の人間に死んでもらう事もない。誰かがやってくれさえすればいいのだ。二十年前、黒川に身代わりになってもらったように。こうして村の人間の視線は、いつしか里見夫妻に集まる。
そして訪れた最後の寄合の夜、犠牲になるのは誰か。果たして「てえべえ」の正体は―。